百人一首

 
 
   

         1

秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ

わが衣手は 露にぬれつつ

天智天皇

農民の辛苦を詠んだ歌。

~(を)+形容詞の語幹+み(原因・理由)

~が…なので。

つつ止め(余情をこめる)

仮庵=「仮の小屋」「刈り穂」の掛詞。

   2

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の

衣干すてふ 天の香具山

持統天皇

天智天皇の皇女。天武天皇の皇后。

夏来にけらし=夏が来たらしい

   3

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の

ながながし夜を ひとりかも寝む

柿本人麻呂

万葉集の代表歌人。愛妻家。

   4

田子の浦に うち出でて見れば白妙の

富士の高嶺に雪は降りつつ

山辺赤人

万葉集の代表歌人。三十六歌仙。 

   5

山に 紅葉踏み分け鳴く鹿の

聞く時ぞ秋は悲しき

猿丸大夫

秋の悲しさを詠んだ歌。

伝説の人物。

   6

かささぎの 渡せる橋に置く霜の

きを見れば夜ぞ更けにける

中納言家持 七夕伝説を用いた一首。三十六歌仙。

   7

天の原 ふりさけ見れば春日なる

三笠の山に出でし月かも

安倍仲麿

遣唐使と共に留学生として唐へ。帰国できず。

天の原=広い大空。地名+なる=地名にある~。

   8

わが庵は 都の辰巳しかぞ住む

世をうぢ山と人はいふなり

喜撰法師

隠居生活を明るく詠んだ歌。

六歌仙(紀貫之が評した平安初期のすぐれた歌人) 

   9

花の色は 移りにけりないたづらに

わが身世にふるながめせしまに

小野小町 花と美貌のはかなさ詠んだ歌。

花=桜。

ふる=「雨は降る」「年月を経る」の掛詞。

ながめ=「眺め」「長雨」の掛詞。

六歌仙。三十六歌仙。在原業平

   10

これやこの 行くも帰るも 別れては

知るも知らぬも逢ふ坂の関

蝉丸

これやこの=これが噂のあの。

「逢ふ」「逢ふ坂の関」掛詞。 

 11

わたの原 八十島かけて漕ぎ出でぬと

人には告げよ海人の釣船

参議篁

隠岐に向かうときに詠んだ歌。(流刑・2年程で戻る。)火葬を進めた人。

わたの原=大海原。八十=数のとても多いこと。海人=漁師。

     12

天つ風 雲の通ひ路吹きとぢよ

女の姿しばしとどめむ

僧正遍昭 五節の舞(宮中の行事で5人の未婚の娘たちが踊る)の様子を詠んだ歌。

六歌仙。素性法師㉑の父。

   13

波嶺の 峰より落つるみなの川

恋ぞ積もりて淵となりぬる

陽成院

恋の相手は光孝天皇⑮の皇女。後に后になる。

奇行乱行が多いとされ、藤原基経によって退位させられた。

   14

奥の しのぶもぢずりたれゆえに

乱れそめにしわれならなくに

河原左大臣

源融。嵯峨天皇の皇子。加茂川のほとりに「河原院」という邸宅を持っていた。光源氏のモデルの一人といわれている。平等院鳳凰堂も元は源融さんの別荘。

そめ=「染め」「初め」の掛詞。

にし=…してしまった。

   15

君がため はるの野に出でて若菜摘む

わが衣手に雪は降りつつ

光孝天皇

55歳で即位。温和で聡明。息子19人。娘26人。

若菜=春の七草。

   16

立ち別れ いなばの山の峰に生ふる

まつとし聞かば今帰り来む

中納言行平

別れがたい気持ちと生末の不安を詠んだ歌。

源氏物語「須磨」のモデル。

いなばの山=「往なば(行くか)」との掛詞。まつ=「松」「待つ」の掛詞。

ば=もし~ならば。

 17

ちはやぶる 神代も聞かず竜田川

くれなゐに水くくるとは

在原業平朝臣56

中納言行平⑮の弟。六歌仙。伊勢物語のモデル。

からくれなゐ=紅葉。

   18

みの江の 岸に寄る波よるさへや

の通ひ路人目よくらむ

藤原敏行朝臣

夢にまでも出てきてくれないと嘆いている歌。

三十六歌仙。

   19

難波潟短き蘆のふしの間も

逢はでこの世を過ぐしてよとや

伊勢

離れた心を一生取り戻せない絶望感を詠んだ歌。

恋多き美女。宇多法皇あつよし親王

   20

わびぬれば 今はたおなじ難波なる

身を尽くしても逢はむとぞ思ふ

元良親王

逢いたいと訴えた不倫の歌。

陽成院⑬の第1皇子。京極御息所(時平の娘。宇多法皇の御息所。美人)と不倫。ドンファン。30人以上。 

「身を尽くし」「澪標」掛詞。

   21

今来むと いひしばかりに長月の

明の月を待ち出でつるかな

素性法師

「待っている間に有明の月を見てしまった」と女性の立場で詠んだ歌。

僧正遍昭⑫の子。 三十六歌仙。

   22

くからに 秋の草木のしをるれば

むべ山風をあらしといふらむ

文屋康秀

六歌仙。歌の本当の作者は息子の朝康㊲と言われている。

むべ=なるほど。

   23

見れば ちぢにものこそ悲しけれ

わが身ひとつの秋にはあらねど

大江千里

秋の物悲しさを詠んだ歌。

在原業平⑰の甥っ子。漢詩は得意だが和歌は不得意。漢詩を翻訳して歌にした。

ちぢに=さまざまに。 

   24

このたびは 幣も取りあへず手向山

もみぢの錦神のまにまに

菅家 菅原道真(天神様)。大宰府に流刑。

   25

名にし負はば 逢う坂山のさねかずら

人に知られで来るよしもがな

三条右大臣

さねかずら(つる草)とともに「あなたのもとへ愛に行きたい」と恋人に送った歌。

藤原定方。

   26

小倉山 峰の紅葉葉心あらば

いまひとたびのみゆき待たなむ

貞信公

宇多法皇が御幸したときに詠んだ歌。

時平(腹違いの兄)と違い真面目で思いやりのある政治家。菅家と手紙のやり取り。

   27

みかの原 わきて流るるいづみ川

いつ見きとてか恋しかるらむ

中納言兼輔

三十六歌仙。紫式部の曾祖父。

わきて=「分きて」「湧きて」の掛詞。 

   28

山里は 冬ぞ寂しさまさりける

人目も草もかれぬと思へば

源宗于朝臣 三十六歌仙。

   29

心あてに 折らばや折らむ初霜の

きまどはせる白菊の花

凡河内躬恒 古今和歌集の撰者。

   30

ありあけの つれなく見えし別れより

あかつきばかり憂きものはなし

壬生忠岑

古今和歌集の撰者。

定家の大好きな歌。

   31

朝ぼらけ ありあけの月と見るまでに

野の里に降れる白雪

坂上是則

三十六歌仙。歌は漢詩を翻訳&アレンジ。

朝ぼらけ=夜明け方。

   32

山川に 風のかけたるしがらみは

流れもあへぬ紅葉なりけり 

春道列樹

「AはBなりけり」という構造。「Aとは何かと思ったら、それはBだったよ」という類型表現。

   33

ひさかたの 光のどけき春の日に

しづ心なく花の散るらむ

紀友則 古今和歌集の撰者。三十六歌仙。

   34

をかも 知る人にせむ高砂の

松も昔の友ならなくに

藤原興風

三十六歌仙。

年老いた作者の孤独な嘆きを歌っている。

友ならなくに=友ではないので。 

   35

人はいさ 心も知らずふるさとは

花ぞ昔の香に匂ひける

紀貫之

古今和歌集の撰者。三十六歌仙。土佐日記。

花=梅。

   36

の夜は まだ宵ながら明けぬるを

雲のいずこに月宿るらむ

清原深養父 清少納言の曾祖父。 

   37

露に 風の吹きしく秋の野は

らぬきとめぬ玉ぞ散りける

文屋朝康

文屋康秀㉒の子。

   38

忘らるる 身をば思はず誓ひてし

人の命の惜しくもあるかな

右近

恋多き女性。歌の相手は敦忠㊸。朝忠㊹

 

   39

あさぢふの 小野の篠原忍ぶれど

あまりてなどか人の恋しき

参議等 忍ぶ恋の切なさを相手に訴えかけた歌。

   40

ぶれど 色に出でにけりわが恋は

ものや思ふと人の問ふまで

平兼盛

三十六歌仙。

960年に行われた歌合せの時の歌。壬生忠見㊶に勝利。判者が勝敗を定めることができなかったが、その場にいた村上天皇が「忍ぶれど」と小さく口ずさんだ。

妻と離婚。妻と再婚相手に女の子(赤染衛門59)が生まれ、自分の子ではと裁判を起こすが負ける。

   41

すてふ わが名はまだき立ちにけり

人知れずこそ思ひそめしか

壬生忠見

三十六歌仙。

恋すてふ=恋してる。

   42

契りきな かたみに袖をしぼりつつ

ゑの松山波越さじとは

清原元輔 三十六歌仙。清少納言62の父。 

   43

逢ひ見ての のちの心にくらぶれば

むかしはものを思はざりけり

権中納言敦忠㊳

三十六歌仙。

ハンサム。多くの女性歌人と歌のやり取り。右近振られる。びわの中納言。

菅原道真を失脚させた藤原時平の息子。

   44

逢ふことの 絶えてしなくはなかなかに

人をも身をも恨みざら歌。

中納言朝忠

三十六歌仙。藤原定方㉕の息子。

なかなかに=かえって。

   45

あはれとも いふべき人は思ほえで

身のいたずらになりぬべきかな

謙徳公 貞信公㉖の孫。 

   46

由良の門を 渡る舟人かぢを絶え

ゆくへも知らぬ恋のみちかな

曾禰好忠  変わり者。

   47

八重むぐら 茂れる宿の寂しきに

人こそ見えね秋は来にけり

恵慶法師

 茂れる宿=100年後の河原院⑭

こそ=…だなあ。

   48

風をいたみ 岩打つ波のおのれのみ

くだけてものを思ふころかな

源重之

三十六歌仙。

~(を)+形容詞の語幹+み(原因・理由)

~が…なので。 

   49

御垣守 衛士のたく火の夜は燃え

は消えつつものをこそ思へ

大中臣能宣朝臣 三十六歌仙。

   50

君がため惜しからざりし命さへ

長くもがなと思ひけるかな

藤原義孝

謙徳公㊺の三男。ハンサム。天然痘。

もがな=であってほしい(願望)

   51

かくとだに えやは伊吹のさしも草

しも知らじな燃ゆる思ひを

藤原実方朝臣

清少納言。光源氏のモデルの一人と言われている。藤原行成と官中でけんかをしたことが原因で都を追われた。

さしも草=ヨモギ

 52

明けぬれば 暮るるものとは知りながら

なほうらめしき朝ぼらけかな

藤原道信朝臣㉓ なほ=そうはいってもやはり。

   53

嘆きつつ ひとり寝る夜の明くる間は

いかに久しきものとかは知る

右大将道綱母 蜻蛉日記。兼家の第2婦人。

   54

忘れじの ゆく末まではかたければ

今日を限りの命ともがな

儀同三司母 貴子(定子の母)道隆(宮中で一番ハンサム)へ。

   55

の音は 絶えて久しくなりぬれど

名こそ流れてなほ聞こえけれ

大納言公任 三船の才(漢詩・管弦・和歌三拍子揃った才能)

   56

あらざらむ この世のほかの思ひ出に

いまひとたびの逢ふこともがな

和泉式部 為尊親王(冷泉天皇の子)と不倫→敦道親王(為尊親王の弟)。夫とは離縁。のちに中宮彰子(道長の子)に仕え、再婚。

   57

ぐり逢ひて 見しやそれとも分かぬ間に

雲がくれにし夜半の月影

紫式部

中宮彰子に仕えていた。

めぐり=月がめぐる

   58

有馬山 猪名の篠原風吹けば

いでそよ人を忘れやはする

大弐三位

紫式部の娘。中宮彰子に仕えていた。

いでそよ=さあ、それですよ。

   59

やすらはで 寝なましものをさ夜更けて

かたぶくまでの月を見しかな

赤染衛門

倫子(道長の妻)と中宮彰子に仕えていた。

長命。性格も穏やか。

姉妹のための代作。かたぶく=傾く。

   60

大江山 いく野の道の遠ければ

まだふみも見ず天の橋立

小式部内侍

和泉式部の娘。中宮彰子に仕えていた。

二十代で亡くなる。歌の相手は藤原定頼64。

   61

いにしへの 奈良の都の八重桜

けふここのへに匂ひぬるかな

伊勢大輔  中宮彰子に仕えていた。二十代で亡くなる。

   62

夜をこめて 鳥のそら音ははかるとも

よに逢坂の関は許さじ

清少納言

中宮定子(道隆の子)に仕えていた。

歌の相手は藤原行成。

そら音=鳴きまね。よに=決して…。

   63

今はただ 思ひ絶えなむとばかりを

人づてならでいふよしもがな

左京大夫道雅

藤原伊周の子。歌の相手は当子内親王(三条院の娘。尼になったが数年後若くして亡くなる)

今はただ=今となってはもう。 

   64

朝ぼらけ 宇治の川霧たえだえに

あらはれわたる瀬々の網代木

権中納言定頼 大納言公任55の息子。小式部内侍60の名歌を引き出した人物。

   65

みわび 干さぬ袖だにあるものを

恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

相模 名=評判、噂。

   66

もろともに あはれと思え山桜

花よりほかに知る人もなし

前大僧正行尊 18年も諸国の霊場を修行してまわったカリスマ僧侶。白河天皇・鳥羽天皇・崇徳天皇77に仕えた。

   67

春の夜の 夢ばかりなる手枕に

かひなく立たむ名こそをしけれ

周防内侍

後冷泉天皇以下4代に仕えた。

歌の相手は藤原忠家。 

かひなく=「甲斐なく」「かひな(腕)」の掛詞。

   68

心にも あらでうき世に長らへば

恋しかるべき夜半の月かな

三条院㊷

冷泉天皇の第2皇子。

目の病気。道長から譲位を迫られ4歳の後一条天皇に仕方なく譲位した。翌年に他界。

うき世=つらいこの世。

   69

吹く 三室の山のもみぢ葉は

田の川の錦なりけり

能因法師  26歳の頃に出家。風狂の歌人といわれている。

   70

しさに 宿を立ち出でてながむれば

いづこも同じ秋の夕暮れ

良暹法師 宿=自分の住む家。 

  71

されば 門田の稲葉おとづれて

あしのまろ屋に秋風ぞ吹く

大納言経信

おとづれて=音を立てて

あしのまろや=蘆ぶきの粗末な家

   72

に聞く高師の浜のあだ波は

かけじや袖のぬれもこそすれ

祐子内親王家紀伊

書合で詠まれた歌。相手は29歳。紀伊は70歳くらいだったといわれている。

音に聞く=噂に聞く。評判になっている。

   73

砂の 尾の上の桜咲きにけり

やまのかすみ立たずもあらなむ

前権中納言匡房

4歳から学問を始め8歳で史記を暗記した天才少年。賢いが性格はひねくれていたらしい。

高砂=高い山。立たずもあらなむ=立たないでほしい。

   74

憂かりける 人を初瀬の山おろしよ

しかれとは祈らぬものを

源俊頼朝臣

大納言経信71の三男。

初瀬=奈良の長谷寺。

   75

契りおきし させもが露を命にて

あはれ今年の秋もいぬめり

藤原基俊

忠道76に息子(僧)の出世を頼むが×。

契りおきし=約束しておいた。いぬめり=過ぎていくようだ。

   76

わたの原 漕ぎ出でて見ればひさかたの

雲居にまがふ沖つ白波

法性寺入道前関白太政大臣 藤原忠道。慈円95の父。

   77

をはやみ 岩にせかるる滝川の

われても末に逢はむとぞ思ふ

崇徳院

23歳の時に3歳の近衛天皇(鳥羽上皇の子)に譲位。後白河天皇と対立(保元の乱)讃岐へ流刑。

瀬をはやみ=流れがはやいので。①㊽

   78

淡路島 通ふ千鳥の鳴く声に

いく夜寝覚めぬ須磨の関守

源兼昌 源氏物語を下敷きにして作られた歌といわれている。

   79

秋かぜに たなびく雲のたえ間より

漏れ出づる月の影のさやけさ

左京大夫顕輔 和歌の名門「六条家」の祖・藤原顕季の三男。父を継ぎ歌壇で活躍。 

   80

ながからむ 心も知らず黒髪の

乱れてけさはものをこそ思へ

待賢門院堀河 待賢門院璋子(崇徳院77の母)に仕え、璋子の出家に伴い出家した。

   81

ととぎす 鳴きつる方をながむれば

ただ有明の月ぞ残れる

後徳大寺左大臣

藤原実定(定家のいとこ)

ほととぎす=夏鳥。 

   82

ひわび  さても命はあるものを

憂きに堪へぬは涙なりけり

道因法師

90

80歳を過ぎて出家。

思いわび=思い悩む。

   83

世の中よ 道こそなけれ思ひ入る

の奥にも鹿ぞ鳴くなる

皇太后宮大夫俊成

91

藤原俊成。定家の父。 63歳で出家。

思ひ入る=「一途な思いに入る」「山に入る」掛詞。

   84

長らへば またこのごろやしのばれむ

憂しと見し世ぞ今は恋しき

藤原清輔朝臣

藤原顕輔79の次男。父と不仲。最後まで認めてもらえなかった。

著した「奥義抄」の中の短歌「むら草に 草の名はもし そなはらば なぞしも花の 咲くに咲くらむ」は日本最古の回文。

   85

夜もすがら もの思ふころは明けやらぬ

やのひまさへつれなかりけり

俊恵法師

源俊頼朝臣71の子。鴨長明の師匠。

歌合の席で女の立場になって詠んだ歌。

夜もすがら=一晩中。ねやのひま=寝室の戸の隙間。 

   86

嘆けとて月やはものを思はする

かこちがほなるわが涙かな

西行法師

23歳で出家。 

   87

雨の露もまだ干ぬまきの葉に

り立ちのぼる秋の夕暮

寂蓮法師 藤原定長。藤原俊成83に期待され養子になるが、定家が生まれたため30代半ばで出家。 

   88

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ

身を尽くしてや恋ひわたるべき

皇嘉門院別当

崇徳天皇の皇后聖子に仕えた。

題詠。テーマは「旅宿に逢う恋」。旅の宿での一夜限りの恋を詠んだ。

   89

の緒よ絶えなば絶えねながらへば

ぶることの弱りもぞする

式子内親王

後白河天皇の第3皇女。定家。出家し一生独身。

玉の緒=命。

   90

見せばやな雄島の海人の袖だにも 

れにぞ濡れし色は変はらず

殷富門院大輔

後白河天皇の第1皇女亮子内親王に仕えた。

歌合で作られた恋歌。

   91

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに

衣かたしきひとりかも寝む

後京極摂政前太政大臣㊳

藤原良経。藤原忠道76の孫。

きりぎりす=こおろぎ。 

   92

わが袖は潮干に見えぬ沖の石の

人こそ知らねかわく間もなし

二条院讃岐 源頼政(平安時代末期に活躍した武将で宮中にあらわれた化け物のヌエを退治したことで有名)の娘。二条天皇に仕えた。

   93

世の中は常にもがもな渚漕ぐ

海人の小舟の綱手かなしも

鎌倉右大臣

源実朝。

常にもがもな=永遠に変わらないでほしい。

   94

み吉野の山の秋風さよ更けて

ふるさと寒く衣打つなり

参議雅経 新古今集の撰者。和歌と蹴鞠の名門「飛鳥井家」を開いた。

   95

おほけなく憂き世の民におほふかな

わが立つ杣にすみ染の袖

前大僧正慈円70

 

関白太政大臣76の子。天台宗のトップ。愚管抄(歴史書)の作者。

おほけなく=身の程知らずなことですが。

   96

花さそふ嵐の庭の雪ならで

ふりゆくものはわが身なりけり

入道前太政大臣

藤原公経。孫が鎌倉幕府4代将軍に。姉が定家の妻。名勝の地に多くの豪華な別荘を所有。

ふりゆくもの=「降り」と「古り」の掛詞。

   97

来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに

焼くや藻塩の身もこがれつつ

権中納言定家 百人一首、新古今集の撰者。明月記(日記)

   98

風そよぐ楢の小川の夕暮は

みぞぎぞ夏のしるしなりける

従二位家隆

新古今集の撰者。 定家の父俊成83の弟子。素直で温厚な性格。歌も清潔で素直でのびやか。流刑になった後鳥羽院に手紙を送り続けた。(定家は1通も送らなかった)

   99

人も愛し人も恨めしあじきなく

世をおもふゆゑにもの思ふ身は

後鳥羽院

承久の乱で敗北し隠岐に流刑。

あじきなく=思うようにならない。 

  100

敷や古き軒端のしのぶにも

なほあまりある昔なりけり

順徳院 後鳥羽院の第三皇子。佐渡に流刑。

 

逢ひ見てののちの心にくらぶれば

むかしはものを思はざりけり

あい

むか

秋かぜにたなびく雲のたえ間より

漏れ出づる月の影のさやけさ

もれ

秋の田の仮庵の庵の苫をあらみ

わが衣手は露に ぬれつつ

わが衣手

明けぬれば暮るるものとは知りながら

なほうらめしき朝ぼらけかな

あけ

なほ

あさぢふの小野の篠原忍ぶれど

あまりてなどか人の恋しき

あさぢ

あまり

朝ぼらけありあけの月と見るまでに 

野の里に降れる白雪

朝ぼらけ 

よし

朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに 

あらはれわたる瀬々の網代木

朝ぼらけ

あら

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の

ながながし夜をひとりかも寝む

あし

ながな

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 

女の姿しばしとどめむ

あま

おと

天の原ふりさけ見れば春日なる

三笠の山に出でし月かも

あま

三笠

あらざらむこの世のほかの思ひ出に 

いまひとたびの逢ふこともがな

あらざ

いまひとたびの

吹く三室の山のもみぢ葉は 

田の川の錦なりけり

 

ありあけのつれなく見えし別れより 

あかつきばかり憂きものはなし

ありあ 

あか

有馬山猪名の篠原風吹けば 

いでそよ人を忘れやはする

有馬

いで

淡路島通ふ千鳥の鳴く声に 

いく夜寝覚めぬ須磨の関守

あわ

いく

あはれともいふべき人は思ほえで

身のいたずらになりぬべきかな

あわ

身の

いにしへの奈良の都の八重桜

けふここのへに匂ひぬるかな

いに

けふ

今来むといひしばかりに長月の

明の月を待ち出でつるかな

あり

今はただ思ひ絶えなむとばかりを 

人づてならでいふよしもがな

憂かりける人を初瀬の山おろしよ

しかれとは祈らぬものを

うか

はげ

みわび干さぬ袖だにあるものを 

恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

うら

逢ふことの絶えてしなくはなかなかに

人をも身をも恨みざらまし

おうこ

山に紅葉踏み分け鳴く鹿の

聞く時ぞ秋は悲しき

小倉山峰の紅葉葉心あらば 

いまひとたびのみゆき待たなむ

小倉

いまひとたびの

に聞く高師の浜のあだ波は

かけじや袖のぬれもこそすれ

かけ

大江山いく野の道の遠ければ 

まだふみも見ず天の橋立

大江

まだ

おほけなく憂き世の民におほふかな 

わが立つ杣にすみ染の袖

おおけ

わがた

ひわびさても命はあるものを

憂きに堪へぬは涙なりけり

おも

うき

かくとだにえやは伊吹のさしも草 

しも知らじな燃ゆる思ひを

かく 

かささぎの渡せる橋に置く霜の 

きを見れば夜ぞ更けにける

かさ 

風そよぐ楢の小川の夕暮は 

みぞぎぞ夏のしるしなりける

みぞ

風をいたみ岩打つ波のおのれのみ 

くだけてものを思ふころかな

くだ

君がためはるの野に出でて若菜摘む

わが衣手に雪は降りつつ

君がため

わが衣手

君がため惜しからざりし命さへ 

長くもがなと思ひけるかな

君がため

長く

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 

衣かたしきひとりかも寝む

きり 

衣か

心あてに折らばや折らむ初霜の 

きまどはせる白菊の花

おき

心にもあらで憂き夜に長らへば

恋しかるべき夜半の月かな

恋し

来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに 

焼くや藻塩の身もこがれつつ

こぬ

焼く

このたびは幣も取りあへず手向山

もみぢの錦神のまにまに

この

もみ

すてふわが名はまだき立ちにけり

人知れずこそ思ひそめしか

ひと

これやこの行くも帰るも別れては 

知るも知らぬもあふ坂の関

これ

知る

しさに宿を立ち出でてながむれば

いづこも同じ秋の夕暮れ

さび

いづ

ぶれど色に出でにけりわが恋は

ものや思ふと人の問ふまで

しの

もの

露に風の吹きしく秋の野は

らぬきとめぬ玉ぞ散りける

みの江の岸に寄る波よるさへや

の通ひ路人目よくらむ

をはやみ岩にせかるる滝川の

われても末に逢はむとぞ思ふ

われ

砂の尾の上の桜咲きにけり 

やまのかすみ立たずもあらなむ

たか

の音は絶えて久しくなりぬれど

名こそ流れてなほ聞こえけれ

なこ

田子の浦にうち出でて見れば白妙の

富士の高嶺に雪は降りつつ

田子

富士

立ち別れいなばの山の峰に生ふる 

まつとし聞かば今帰り来む

立ち 

の緒よ絶えなば絶えねながらへば

ぶることの弱りもぞする

をかも知る人にせむ高砂の

松も昔の友ならなくに

たれ

契りおきしさせもが露を命にて 

あはれ今年の秋もいぬめり

ちぎり 

あわれ

契りきなかたみに袖をしぼりつつ 

ゑの松山波越さじとは

ちぎり

ちはやぶる神代も聞かず竜田川

くれなゐに水くくるとは

ちは

見ればちぢにものこそ悲しけれ 

わが身ひとつの秋にはあらねど

 

わが身

波嶺の峰より落つるみなの川

恋ぞ積もりて淵となりぬる

つく

ながからむ心も知らず黒髪の 

乱れてけさはものをこそ思へ

なが

乱れて

長らへばまたこのごろやしのばれむ

憂しと見し世ぞ今は恋しき

なが

うし

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は

いかに久しきものとかは知る

なげ

いか

嘆けとて月やはものを思はする

かこちがほなるわが涙かな

なげ

かこ

の夜はまだ宵ながら明けぬるを 

雲のいずこに月宿るらむ

名にし負はば逢う坂山のさねかずら 

人に知られで来るよしもがな

なにし

にし

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 

身を尽くしてや恋ひわたるべき

なにわえ 

身を尽くして

難波潟短き蘆のふしの間も

逢はでこの世を過ぐしてよとや

なにわが

あはで

花さそふ嵐の庭の雪ならで 

ふりゆくものはわが身なりけり

 

ふり

花の色は移りにけりないたづらに 

わが身世にふるながめせしまに

わがみよ

春過ぎて夏来にけらし白妙の

衣干すてふ天の香具山

衣ほ

春の夜の夢ばかりなる手枕に 

かひなく立たむ名こそをしけれ

かひ

ひさかたの光のどけき春の日に

しづ心なく花の散るらむ

ひさ

しづ

人はいさ心も知らずふるさとは 

花ぞ昔の香に匂ひける

人も愛し人も恨めしあじきなく

世をおもふゆゑにもの思ふ身は

世をお

くからに秋の草木のしをるれば

むべ山風をあらしといふらむ

むべ

ととぎす鳴きつる方をながむれば

ただ有明の月ぞ残れる

ただ

御垣守衛士のたく火の夜は燃え

は消えつつものをこそ思へ

みか

みかの原 わきて流るるいづみ川

いつ見きとてか恋しかるらむ

みか

いつ

見せばやな雄島の海人の袖だにも 

れにぞ濡れし色は変はらず

見せ

奥のしのぶもぢずりたれゆえに 

乱れそめにしわれならなくに

みち 

乱れ

み吉野の山の秋風さよ更けて

ふるさと寒く衣打つなり

みよし

ふる

雨の露もまだ干ぬまきの葉に 

り立ちのぼる秋の夕暮

ぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に

雲がくれにし夜半の月影

敷や古き軒端のしのぶにも

なほあまりある昔なりけり

もも

なほ

もろともにあはれと思え山桜 

りほかに知る人もなし

もろ

やすらはで寝なましものをさ夜更けて

かたぶくまでの月を見しかな

やす

かた

八重むぐら茂れる宿の寂しきに

人こそ見えね秋は来にけり

やえ

こそみ

山川に風のかけたるしがらみは

流れもあへぬ紅葉なりけり

やま

流れ

山里は冬ぞ寂しさまさりける

人目も草もかれぬと思へば

やま

されば門田の稲葉訪れて

あしのまろ屋に秋風ぞ吹く

ゆう

あし

由良の門を渡る舟人かぢを絶え

ゆくへも知らぬ恋のみちかな

ゆら

ゆく

世の中は常にもがもな渚漕ぐ

海人の小舟の綱手かなしも

世の中

あまの

世の中よ道こそなけれ思ひ入る

の奥にも鹿ぞ鳴くなる

世の中

夜もすがらもの思ふころは明けやらぬ

やのひまさへつれなかりけり

夜をこめて鳥のそら音ははかるとも

よに逢坂の関は許さじ

よに

わが庵は都の辰巳しかぞ住む

世をうぢ山と人はいふなり

わが

世をう

わが袖は潮干に見えぬ沖の石の

人こそ知らねかわく間もなし

わが

こそし

忘らるる身をば思はず誓ひてし

人の命の惜しくもあるかな

るる

忘れじのゆく末まではかたければ

今日を限りの命ともがな

けふ

わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 

雲居にまがふ沖つ白波

わたの原 

くも

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 

人には告げよ海人の釣船

わたの原

には

わびぬれば今はたおなじ難波なる

みをつくしても逢はむとぞ思ふ

わび

みをつくして

 下の句

あかつきばかり憂きものはなし

ありあけのつれなく見えし別れより 

あしのまろ屋に秋風ぞ吹く

されば門田の稲葉訪れて

あわこの世を過ぐしてよとや

難波潟短き蘆のふしの間も

あわ今年の秋もいぬめり

ちぎりきしさせもが露を命にて

海人の小舟の綱手かなしも

世の中常にもがもな渚漕ぐ

あまりてなどか人の恋しき

あさぢふの小野の篠原忍ぶれど

あらわれわたる瀬々の網代木

朝ぼらけ治の川霧たえだえに

ありあけの月を待ち出でつるかな

今来むといひしばかりに長月の

いかに久しきものとかは知る

なげつつひとり寝る夜の明くる間は

いく夜寝覚めぬ須磨の関守

淡路島通ふ千鳥の鳴く声に

いづこも同じ秋の夕暮れ

しさに宿を立ち出でてながむれば

いつ見きとてか恋しかるらむ

みか原 わきて流るるいづみ川

いでそよ人を忘れやはする

有馬山猪名の篠原風吹けば

いまひとたびのふこともがな 

あららむこの世のほかの思ひ出に 

いまひとたびのゆき待たなむ

小倉山峰の紅葉葉心あらば

に堪へぬは涙なりけり

ひわびさても命はあるものを

と見し世ぞ今は恋しき

へばまたこのごろやしのばれ

きまどはせる白菊の花

てに折らばや折らむ初霜の

乙女の姿しばしとどめむ

風雲の通ひ路吹きとぢよ

かけじや袖のぬれもこそすれ

に聞く高師の浜のあだ波は

かこちがほなるわが涙かな

なげとて月やはものを思はする

かたぶくまでの月を見しかな

やすらはで寝なましものをさ夜更けて

かひなく立たむ名こそをしけれ

夜の夢ばかりなる手枕に

からくれなゐに水くくるとは

ちはやぶる神代も聞かず竜田川

り立ちのぼる秋の夕暮

雨の露もまだ干ぬまきの葉に

くだけてものを思ふころかな

いたみ岩打つ波のおのれのみ

くれにし夜半の月影

ぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に

いずこに月宿るらむ

の夜はまだ宵ながら明けぬるを

くもにまがふ沖つ白波

わたの原ぎ出でて見ればひさかたの

けふこのへに匂ひぬるかな

いにしへの奈良の都の八重桜

けふ限りの命ともがな

じのゆく末まではかたければ

かるべき夜半の月かな

もあらで憂き夜に長らへば

積もりて淵となりぬる

波嶺の峰より落つるみなの川

朽ちなむ名こそ惜しけれ

みわび干さぬ袖だにあるものを

たしきひとりかも寝む

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに

すちょう天の香具山

春過ぎて夏来にけらし白妙の

聞く時ぞ秋は悲しき

山に紅葉踏み分け鳴く鹿の

しも知らじな燃ゆる思ひを

かくとだにえやは伊吹のさしも草 

しづ心なく花の散るらむ

ひさかたの光のどけき春の日に

ぶることの弱りもぞする

の緒よ絶えなば絶えねながらへば

知るも知らぬもあふ坂の関

これやこの行くも帰るも別れては 

きを見れば夜ぞ更けにける

かささぎの渡せる橋に置く霜の

ゑの松山波越さじとは

ちぎりなかたみに袖をしぼりつつ

ただ有明の月ぞ残れる

ととぎす鳴きつる方をながむれば

たつ田の川の錦なりけり

吹く三室の山のもみぢ葉は

らぬきとめぬ玉ぞ散りける

しらつゆに風の吹きしく秋の野は

やまのかすみ立たずもあらなむ

砂の尾の上の桜咲きにけ

もがなと思ひけるかな

君がためおしからざりし命さへ

なががし夜をひとりかも寝む 

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の

もあへぬ紅葉なりけり

やまわに風のかけたるしがらみは

名こそ流れてなほ聞こえけれ

の音は絶えて久しくなりぬれど

なほまりある昔なりけり

敷や古き軒端のしのぶにも

なほらめしき朝ぼらけかな

明けぬれば暮るるものとは知りながら

れにぞ濡れし色は変はらず

見せばやな雄島の海人の袖だにも 

やのひまさへつれなかりけり

すがらもの思ふころは明けやらぬ

はげしかれとは祈らぬものを

うかりける人を初瀬の山おろしよ

昔の香に匂ひける

いさ心も知らずふるさとは

りほかに知る人もなし

もろともにあはれと思え山桜

こそらねかわく間もなし

わがでは潮干に見えぬ沖の石の

こそえね秋は来にけりへ

八重むぐら茂れる宿の寂しきに

れずこそ思ひそめしか

すちょうふわが名はまだき立ちにけり

てならでいふよしもがな 

今はただ思ひ絶えなむとばかりを 

にしられで来るよしもがな 

名にしおはば逢う坂山のさねかずら

には告げよ海人の釣船

わたの原そしまかけて漕ぎ出でぬと

命の惜しくもあるかな

るる身をば思はず誓ひてし

も草もかれぬと思へば

やまと冬ぞ寂しさまさりける

も身をも恨みざらまし

おうことの絶えてしなくはなかなかに

は消えつつものをこそ思へ

みか守衛士のたく火の夜は燃え

富士の高嶺に雪は降りつつ

田子の浦にうち出でて見れば白妙の

ふりゆくものはわが身なりけり

そふ嵐の庭の雪ならで

ふるさと寒く衣打つなり

み吉野の山の秋風さよ更けて

まだふみも見ず天の橋立 

大江山いく野の道の遠ければ

まつし聞かば今帰り来む

立ち別れいなばの山の峰に生ふる

昔の友ならなくに

をかも知る人にせむ高砂の

三笠の山に出でし月かも

原ふりさけ見れば春日なる

みぞぎぞ夏のしるしなりける 

よぐ楢の小川の夕暮は 

乱れめにしわれならなくに

みちのくのしのぶもぢずりたれゆえに 

乱れけさはものをこそ思へ

ながからむ心も知らず黒髪の

身のいたずらになりぬべきかな

あわともいふべき人は思ほえで

みをつくして逢はむとぞ思ふ

わびぬれば今はたおなじ難波なる 

みをつくして恋ひわたるべき 

難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 

むかしはものを思はざりけり

逢い見てののちの心にくらぶれば

むべ山風をあらしといふらむ

くからに秋の草木のしをるれば

ものや思ふと人の問ふまで 

ぶれど色に出でにけりわが恋は

もみぢの錦神のまにまに

このたびは幣も取りへず手向山

漏れ出づる月の影のさやけさ

秋かぜにたなびく雲のたえ間より

焼くや藻塩の身もこがれつつ

来ぬ人を松帆の浦の夕なぎに

の奥にも鹿ぞ鳴くなる

世の中道こそなけれ思ひ入る

ゆくへも知らぬ恋のみちかな

由良の門を渡る舟人かぢを絶え

めの通ひ路人目よくらむ

みの江の岸に寄る波よるさへや

野の里に降れる白雪

朝ぼらけありけの月と見るまでに 

よに逢坂の関は許さじ

こめて鳥のそら音ははかるとも

世をぢ山と人はいふなり

わがほは都の辰巳しかぞ住む

世をもふゆゑにもの思ふ身は

人も愛し人も恨めしあじきなく

わが衣手雪は降りつつ

君がためるの野に出でて若菜摘む

わが衣手露に ぬれつつ

田の仮庵の庵の苫をあらみ

わがつ杣にすみ染の袖

おおけなく憂き世の民におほふかな 

わがみとつの秋にはあらねど

見ればちぢにものこそ悲しけれ

わがみにふるながめせしまに

色は移りにけりないたづらに

われても末に逢はむとぞ思ふ 

をはやみ岩にせかるる滝川の

<読んだ本>

しょんぼり百人一首-それでも愛おしい歌人たち-/天野慶著 イケウチリリー絵

幻冬舎・2020.11出版

百人一首を人生・家族・恋愛・仕事といったテーマに分け、歌人たちの「しょんぼりエピソード」が面白おかしく紹介されている。 


やさしい小倉百人一首の鑑賞/伊藤晃

文芸社・2018.5出版

百首それぞれの現代訳と歌意、成り立ち、歌人についてコンパクトに解説されている。


一冊でわかる百人一首  100人の歌人の生涯と名作の鑑賞ポイントがわかる/吉海直人監修

成美堂・2017.3出版 ♥♥

歌人の生涯と名作の鑑賞ポイントをビジュアル解説。作者の生い立ち、新しい解釈など豊富な写真とコラムで一首ずつわかりやすく紹介されている。 


ときめき百人一首/小池昌代

河出書房新社・2017.2出版

恋する気持ち、人生の深淵、四季折々の感動を味わうための百人一首入門。詩人・作家の著者がドラマチックな名歌それぞれに訳詩を付けて紹介し、その歌をどう読むかを解説。出典歌集、わかりにくいことばの説明も掲載。


百人一首の正体/吉海直人

KADOKAWA・2016.10出版 

藤原定家が撰出したという通説は本当か。いつから「百人一首」と呼ばれるようになったのか。なぜこの百首が選ばれたのか。百人一首の真実を明らかにする。百首すべての見所と現代語訳も掲載。


原色 小倉百人一首/鈴木日出男・ 山口慎一・ 依田泰 ♥♥

文英堂・2014.12出版 

歌の解説の他に情景写真や品詞分解もあり、とても充実している。字は小さい。

2009年発行の朗詠CD付きも所有。


「百人一首」七百八十年の謎を解く/山縣知道

文芸社・2014.11出版

「百人一首」は藤原定家の願いを守るために創られ、その願いが籠められたものが「百人秀歌」だと著者は言う。金剛界曼荼羅の101体の仏像に「百人秀歌」101首を重ね、「百人一首」の謎を解明。曼荼羅図表付き。 


恋する「小倉百人一首」/阿刀田高

潮出版社・2011.11出版

 『潮』掲載に加筆修正して単行本化されたもの。清少納言のことを悪く書いていたのが嫌。 


百人一首-桃尻語訳- /橋本治

海竜社・2009.10出版 

枕草子の桃尻語訳は面白かったのだけれど…。


百人一首が面白いほどわかる本/望月光♥♥

KADOKAWA・2004.12出版 

藤原定家とサネトモの対談形式で百人一首を解説。百首それぞれの現代語訳、ポイントとなる文法と解説。とても分かりやすいし、楽しい。愛読書。


人に話したくなる百人一首/あんの秀子

ポプラ社・2004.12出版 

歌の文法や時代背景などを分かりやすく丁寧に解説されていて、読み応えがあった。


口語訳詩で味わう百人一首/佐佐木幸綱編著 田島董美画

さ・え・ら書房・2003.12出版 

百人一首を口語訳詩で味わう本。簡単な語句の説明、人物紹介、著者のオリジナルイメージの口語訳詩もあり。


絵解き百人一首―江戸かるたと風景写真で味わう /有吉保♥♥

講談社・1991.1出版 

かるた絵と美しい風景写真を入れながら百人一首が紹介されている。詠まれた場所や背景も丁寧に解説されている。巻末に各首の解説、各作者の簡単な紹介、あいうえお順の百種索引付き。とても読み応えがある。 字は小さい。


みもこがれつつ-物語百人一首-/矢崎藍♥♥

筑摩書房・1989.12出版

作者の背景や時代背景がよくわかる。愛読書。